惜しい人を亡くした
駿台関係者でないと知らないと思うけど、昔、東大の物理科の主任で東大物理を担当していた坂間勇(敬称はつけないことにする)という講師がいた。変人揃いの駿台講師の中でもぶっ飛んだ人で、まず容貌からして普通じゃない。たしか、いつも白衣を着て歩いていた。
趣味でポルシェに乗っていて、気まぐれで遠くまで飛んでいくとか、結構自由人だった。熱力学の授業では水冷の車を認めないようなこともそれとなく言っていた。でも、もうポルシェも水冷になって久しいんだけどね。
このような変人であるから、授業もほとんど人が入らなかった。大抵の人は他のクラスの時間割を見て、自分の都合で組み替えていた。坂間が出てくるのは上位クラスだけなので、下位クラスに行くと他の講師が同じ講義を担当している。
何でこんな人が物理科の主任で東大物理担当なんだろうと疑問に思うほど。予備校って人気商売だから、普通ならクビだと思うけど、こんな人を重用していたのは駿台の特色の現れとも言えるのだろう。
駿台の物理科というと山本義隆のイメージがあるけど
山本義隆の『物理入門』は大学生向けの教科書と言っていい。彼は坂間と違って多くの授業を受け持つし、本もベストセラーで、高校の範囲を逸脱した授業をするため、多くの人に彼の授業が駿台のスタンダードのように思われているらしい。
山本の授業は難しいんだけど、付いて行けないほどではない。しかし、坂間の授業はもっとぶっ飛んでいる。大抵の人は彼が何を言おうとしているか理解できず、諦める。
まず、彼は問題文は読むが設問は読まない。設定だけ把握すると、黒板にぶつぶつ言いながら色々書いていく。一通り書き終わると次の問題に移ってしまう。よく見ると黒板の中には答えがどっかしらに入っている。
こんな解き方であるから(1)→(2)→(3)→(4)のような順番に答えが書いてあるとは限らない。最初に(4)が出てしまうこともある。
彼の解き方は私には心地よく感じた。多くの大学の問題では思考の誘導があってそれが嫌なのだけど、彼の解き方はそういうのとは無縁で、それが自分に向いていた。
ただ、東大くらいの問題だと変なことを聞かないからこれでよいのだけど、地方の旧帝大くらい以下だと受験生を誘導するための設問なので、これに慣れると結構キツい。もちろん、問題そのものが易しいので、相手の誘導に乗ってしまえば答えは出るんだけど、何か気持ち悪いのだ。
間違いなく変人なんだけど
変人だけどユーモアはあったと思う。上記の説明だと大学のつまらない授業を想像してしまうかも知れないが、聞いていると結構面白いのだ。例えば、宇宙人の話をよくしていたと思う。例えば「自然定数は神の定めた数だから、宇宙人に会ったら聞いてみな。同じ値を応えるはずだから。あいつらが10進数を使っていればな」とか、そんな感じである。私には彼が宇宙人に見えたけど、それは言うまい。
宇宙人が10進数を使うとは限らないのは、考えてみれば当たり前なんだけど、普通の人の考えではこぼれ落ちていると思う。彼のそうした着眼点の数々はとても面白かった。
彼に誰かが「東大に受かるにはどうすればいいですか?」と聞いたところ「試験を受けて答えを書いてくればいい」と真顔で答えたというエピソードは長島に近い。
物理に関する10話
私が駿台にいたころには、この本は既に絶版になっていた。その話を坂間にしたところ、翌週、彼は一冊私のために持ってきてくれた。タダで手に入っちゃった、ではなくて、貴重な本が手に入ったことに感謝である。見かけはぶっきらぼうだけど、講師だけあって面倒見は実はいい。でも、質問するとき計算用紙10枚くらい苦労の跡を見せないと追い返されるなど、甘くはない。

Amazonにも画像がない古典である。書評が2件あるのでぱくっておく。
坂間氏といえば、あのぶっ飛んだ講義と超エキセントリックなキャラの印象ばかりが強いのですが、こんなフレンドリーで穏やかな読み物を書いているとは意外でした。
100ページに「学ぶ権利宣言」という素晴らしい名文があります。
機会があったら是非見てください。
物理の面白さを伝えるための読み物。参考書や問題集ではない。元々は駿台の雑誌に連載してあったものをまとめて編集したもの。高校生、受験生に限らず、大学生、社会人の方でも、物理に興味ある人、興味ないけれど(つまらなくてしょうがないけれど)やらなければならない人、そんな人たちにお薦めの一冊。但し、定価で買えるのならの話。
時代の変わり目
思えば、だんだん駿台の名物講師が亡くなっている。若手にもいい講師はいるんだけど、いわゆる古い駿台講師はそろそろ入れ替わってしまったのかな。駿台も大手予備校路線に切り替えて、簡易クラスをたくさん作ったり、全国展開して、その辺からは代ゼミとあんまり変わらなくなっている。一部の学者崩れの講師陣が昔の名残というか。
大抵の人は死ぬまで講師をしているというから、マターリ人生を希望する廃人には理解できない人生とも言える。死ぬ直前まで仕事をするほどやりがいがあるとでも言うのだろうか。
大昔の駿台の英語科講師、鈴木長十の台詞だが「数年前までは、講師としてある大学へも教えに行っていたが教室での学生の態度は予備校と比べ雲泥の差、こちらもついつい懸命に教える気がしなくなる。そのため最近は講師などの話はすべてお断わりしている」というものがある。
伊藤和夫(彼も最後の授業のあと少しして亡くなった)も同じことを言っていたらしい。この二人は私が駿台に行く前に既にお亡くなりだったが。坂間も大学生のやる気の無さに呆れ、予備校講師となったらしい。
大学の教員との違いはここに尽きると思う。真面目に学びたい学生に対して本気で教えることが好きな人が予備校の講師を仕事に選ぶのだ。彼らは本来ならもっと有名な学者になっていてもおかしくない人も多いのだから。
坂間の晩年は知らないけれど、噂によるとやはり最後まで授業をしていたらしい。去年あたり、何かやっていたという話である。
彼は立派に後進を育てたと思う。その一人がニートになって申し訳ない。
ご冥福をお祈りいたします。
リンク
ググっていて見つけたリンクをいくつか
いくつかって書いたけど1つでいいや。ファンサイト、メンテされていないので消滅が心配だけど、これは貴重なアーカイブだ。
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いやいや、私も実はビデヲ講義をちょっと受けましたよ。東進のやつ。Yゼミで難しすぎるで解雇になった講師を拾ったりしてましたね。たしかに得点に直結したかはわからないし、内容もおかしいとこもあったけど、面白かったです。やはり、東大の教官と違って教える気はありますからw
でも、俺が見ていた講師は最近東進でも講義がなくなってます・・・
駿台は地方には来ないから、東京で上位層だけ相手に商売しているレベルの高い予備校ってだけのイメージでしたが、違ったんですね。
確かに駿台文庫は何か独特のものがあります。他の出版社のは売れればいいって感じで面白おかしく書いているけど。
東進は勢いありますね。よく三大予備校って言うけど、四大にしてもいいかも。以前、教材作りでも言及したけど、東進は映像教材に力を入れている感じ。駿台の人気講師も随分移籍していますよ。
かなり前の駿台は早稲田に入るより難しいと言われたそうです。駿台で席次1000番以内なら東大に入れる可能性が高いから、現役で早稲田に行くより駿台に進んだ方がよかったと言われる時代もあったのですが、今はリア充至上主義もあって現役で私大の方がいい時代だし、過去のエピソードって感じです。
講師の間にも派閥はあります。前に西岡って数学講師がいたけど、派閥を引き連れて代ゼミに移りました。以前から別の講師の不満をクチにしていたし、あわなかったんでしょうね。代ゼミに移籍後、彼はトップ講師の扱いを受けて、派閥で東大数学と京大数学を持ちました。
ある種、駿台はオナニートなのかも知れません。代ゼミはリア充寄り。